動脈硬化外来とは?(動脈硬化を詳細に分析する事の重要性について)
今日、日本人の死因の6割を占めるいわゆる3大疾病はガン・脳卒中・心筋梗塞です。
脳卒中や心筋梗塞は突然発症しますが、その原因である動脈硬化は徐々に進行し、
発病の直接要因となる血管の狭窄や血栓による閉塞に至るまでには相当の期間がかかります。
また動脈硬化は全身の血管において同時進行するため、脳卒中や心筋梗塞の他にも
様々な動脈硬化関連疾患を発症する危険が高くなります。
したがって動脈硬化性疾患の発症を予防するためには、定期的に全身の重要な血管に
ついて動脈硬化による変化を具体的データから分析評価し、患者さんの状態に応じた
最適な治療を選択することが大切です。
当院では生活習慣病を背景に急増する動脈硬化性疾患への対策として「動脈硬化外来」において、
その発症予防・リスク診断・定期検診・治療に力を注いでいます。
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動脈硬化とは、加齢・成人病(高血圧・脂質異常症・糖尿病)・喫煙・肥満などを原因として、
動脈の血管内皮でアテローム硬化が進行することにより、血管壁が硬化し弾力性が失われた状態をいいます。
その発生機序は・・・・
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血管内膜が肥厚します。
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血管内膜に脂質が沈着し、その周囲に炎症が生じます。
炎症の治癒とともに、沈着した脂質の周囲を線維性皮膜が覆い、
安定プラークが形成され血管壁は硬化します。(アテローム硬化)
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線維性皮膜形成が弱い、あるいは脂質周囲の炎症が強い場合、
不安定プラークが破錠し血管内に血栓(アテローム血栓)を生じます。
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© ファイザー株式会社
虚血性心疾患および脳梗塞の発生機序
心臓に血液を供給する冠動脈でプラークが破綻し血栓が血管内腔を閉塞すると心筋梗塞や狭心症を発症します。
脳梗塞の原因はアテローム血栓性梗塞・ラクナ梗塞・心原性梗塞に分類されます。
アテローム血栓性梗塞とラクナ梗塞は動脈硬化が原因です。
心原性梗塞は心房細動などの不整脈や心臓の弁に異常のある方に心臓内で生じた血栓が
血流に乗り頭部の血管を閉塞して発症します。
© ファイザー株式会社
動脈硬化はここが危険!
動脈硬化が存在してもそれだけでは症状は生じません。
しかし動脈硬化を放っておくと全身の血管が障害され虚血性心疾患や脳梗塞などを発症する原因になります。
一度病気を発症してしまうと重い臓器障害や後遺症を残すことになります。
したがって動脈硬化を早期に発見し、その原因を治療することが大切です。
動脈硬化は全身の血管で発生します。 動脈硬化によって障害される血管の部位によって異なる疾患が発症します。
障害される血管 | 発病する疾患名 | 当院での検査 |
連携病院での検査※ |
脳血管 | 脳出血 脳梗塞 | 頚動脈エコー | MRI・MRA MDCTなど |
心血管 | 狭心症 心筋梗塞 |
心エコー | MDCT IVUSなど |
下肢の動脈 | 閉塞性動脈硬化症 | ABI/CAVI | |
腎臓の動脈 |
腎硬化症 慢性腎臓病 | 血液検査 微量アルブミン尿(自費) | |
※
連携病院での検査は当院で検査後、精密検査が必要な場合のみ
当院で行っている動脈硬化を評価する検査についてご紹介いたします。
頚動脈エコー |
頚動脈エコーにより血管壁の肥厚、プラークや血栓の有無を測定することにより
アテローム硬化性変化の進行度を評価します。
頚動脈プラークの存在は脳血管障害(脳梗塞・脳出血)のみでなく、
心血管イベント(狭心症・心筋梗塞)発症の危険とも相関します。
・頚動脈の内膜中膜複合体壁厚(IMT)測定=動脈硬化による血管壁の肥厚を測定。
・プラーク形成に伴う血管の狭窄率測定
・不安定プラークや血栓の有無
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ABI/CAVI |
手足の血管の動脈硬化を評価します。
特に下肢の動脈が詰まって発症する閉塞性動脈硬化症の早期発見に有用です。
ABI:動脈硬化による足の血管の詰まりがあるかどうかを知ることができる。
CAVI:動脈の硬さを測定し、血管年齢として評価する。
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眼底検査 |
体外から直接細動脈を観察できるのは眼底だけ。
眼底動脈の動脈硬化性変化を観察します。
特に動脈瘤や眼底出血は早期発見・早期治療が必要です。
その他にも糖尿病性網膜症・白内障・緑内障・網膜静脈閉塞症や加齢黄斑変性症など
生活習慣病や加齢によって発症する様々な眼科疾患がわかります。
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微量アルブミン尿 |
腎臓の血管の動脈硬化が進行すると腎硬化症・慢性腎臓病(CKD)となります。
CKDは心血管イベント発症のリスクを高めるだけでなく、進行すると腎不全になり
生命予後に大きな影響を及ぼすため、早期発見治療が必要です。
微量アルブミン尿は一般の蛋白尿と異なり、腎動脈硬化の初期から出現するため有用です。
(保険適応には条件があります)
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動脈硬化は習慣的な喫煙や肥満および生活習慣病などを背景に進行します。
これらの要因を治療により解消する、あるいは良好にコントロールすることが大切です。
要因 |
検査 |
治療 |
喫煙 |
ブリンクマン指数
TDSテスト 呼気中一酸化炭素濃度測定 |
(2006年より禁煙治療が保険適応になりました) |
肥満 |
BMI測定
体脂肪率測定
腹囲測定 腹部CT |
減量指導 (食事療法・運動療法など) |
高血圧 |
血圧測定:
家庭血圧の測定をお勧めします。
逆白衣高血圧や早朝高血圧は 心血管病発症の危険性が高くなります。 |
内服薬治療
減塩指導 運動療法 |
脂質異常症 (高脂血症) |
血液検査: |
HDLコレステロール値
LDLコレステロール値 中性脂肪値 |
内服薬治療
食事療法 運動療法 |
耐糖能異常 (糖尿病) |
血液検査: |
空腹時血糖値
随時血糖値
HbA1c 糖負荷試験など |
内服薬治療
食事療法 運動療法 |
動脈硬化が直接の原因ではないが、生活習慣病や動脈硬化性疾患に高率に合併し生命
予後に影響を与える動脈硬化関連疾患として
睡眠時無呼吸症候群・メタボリック症候群などがあります。
睡眠時無呼吸症候群:
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は動脈硬化から発症するものではありませんが、
SAS罹患者は高血圧・虚血性心疾患・糖尿病などの生活習慣病を高率に合併し、その生命予後に影響を与えます。
■ SASとは?
「10秒以上続く無呼吸が、一晩の睡眠中(7時間)に30回以上、もしくは睡眠1時間に平均5回以上認められ、
かつその一部は、健康な人では最も規則正しい呼吸が観察できるnon-REM睡眠と呼ばれる睡眠中にも認める場合」
と定義されています。
無呼吸により患者さん本人はほとんど気付かない目覚め(=脳波上の覚醒)が起こり、睡眠の質が低下し日中の眠気が起こります。
また無呼吸の間は酸素の取り込みと二酸化炭素の排出が止まるため、血中低酸素および二酸化炭素の貯留が様々な臓器に悪影響を及ぼします。
■ 診断および治療
問診でSASが疑われる場合、
簡易検査(終夜睡眠ポリグラフィー)を施行して診断します。
(より詳細な検討が必要な場合は連携施設にてポリソムノグラフィーを依頼)
SASには閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と中枢型睡眠時無呼吸症候群(CSAS)があります。
内科的治療として、第一にダイエット、更に必要に応じて、OSASの治療にはCPAP(持続陽圧呼吸)療法、CSASの治療にはASV(adaptive servoventilation)を施行します。
いずれも在宅で比較的簡便に利用できるマスク式人工呼吸器を使用します。
メタボリック症候群:
メタボリック症候群は40歳〜74歳の日本人の男性4人に1人、女性9人に1人が罹患している言われています。
その基本病態は、内臓肥満に高血圧・脂質異常症・耐糖能異常などが合併する事により生ずる、
インスリン抵抗性(インスリンが体内で作用しにくい)と呼ばれる状態にあります。
メタボリック症候群では動脈硬化が進行し、心血管病や脳梗塞発症のリスクが2〜3倍高くなります。
■ メタボリック症候群とは?
中心性肥満:ウエスト周囲長が男性85cm女性90cm以上
・TG≧150もしくはHDL-C<40または薬剤治療中
・血圧≧130/85または薬剤治療中
・空腹時血糖≧110または薬剤治療中
■ メタボリック症候群発症のメカニズム
アディポサイトカインの役割
メタボリック症候群を発生するメカニズムとして脂肪細胞から分泌される生理活性物質、アディポサイトカインの異常が重要です。
代表的な善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンは内臓脂肪蓄積によって減少し、インスリン抵抗性・高血圧・脂質異常・
動脈硬化などに関与します。
アディポネクチンの血中レベルを測定することにより将来の糖尿病・心血管病の発症を予測できます。
逆に内臓脂肪蓄積によって増加する悪玉アディポサイトカインとしては、インスリン抵抗性・高血糖を惹起するTNFα・MCP-1・
レヂスチン、血栓傾向を惹起するPAI-1、炎症を誘導するIL-6、高血圧を惹起するアンギオテンシノーゲンなどがあります。
引用:日本医師会雑誌 第136巻・特別号(1) メタボリックシンドローム
■ メタボリック症候群の評価
メタボリック症候群の病態を評価する方法として、インスリン抵抗性を評価するため
の血液検査と動脈硬化の検査を行います。
・ インスリン抵抗性の評価 |
・HOMA-R=(空腹時血糖×空腹時インスリン濃度)/405
・アディポネクチン測定
・高感度CRP測定 |
・ 動脈硬化の評価 |
・頸動脈エコー
・眼底検査
・血管年齢測定(CAVI/ABI検査)など |
■ メタボリック症候群の治療
メタボリック症候群の治療は、インスリン抵抗性を増悪させる生活習慣を解消する事
と内臓肥満の治療です。
下記が標準的処方になりますが、個人の生活様式に合わせた方法をご指導いたします。
運動療法 | 日常生活の中でカロリー消費を促す工夫をしましょう
<運動処方>
強度:50%最大酸素摂取量:・脈拍数=138−年齢/2 ・ボルグ指数11(楽である)〜13(ややきつい)
種類:歩行、水泳、水中歩行、社交ダンス、サイクリングなど
量・頻度:1日30分以上(できれば毎日)、週180分以上
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食事療法 | 摂取エネルギーを減らすコツを指導します
・食事の癖を見つける(体重日記を付ける 間食を摂らない)
・炭水化物の摂取を55%以下にする
・脂肪の摂取制限
・低GI食のススメ
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禁煙指導 |
喫煙はメタボリック症候群から脳・心・血管病を発症する危険がさらに高くなります
をお勧めします
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アルコール 摂取制限 |
アルコール飲料の成分とエネルギー量を正しく理解し、アルコール摂取量はなるべく1合/日までにしましょう
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